まともな商売ではあったが就労環境は最低だった

 

たぶん別に詐欺じゃないんだよなあ。実際のところを知らないからたぶんとしか言えないけど。

anond.hatelabo.jp

 

水道については知らないけど、畳屋で以前に似たようなことはやっていたことがある。働いていたのは最大手を名乗る畳屋。この最大手っていうのも何を基準にするのかでいろいろあって、個人客のみなのか法人(不動産デベロッパーやハウスメーカー等)を含むのかとか、建具やインテリアとか他の事業も含むのかとか、だいたいどこも非上場だからそこまで細かい数字公表してねえよとか、まあそんな感じでいい加減な「最大手」ではある。
そこで私がやっていたのは、個人客への営業だ。営業と言っても完全反響営業。折込広告を出して、その問い合わせがあった宅に訪問していく。増田に書かれた水道屋に近いビジネスモデルじゃないかと思う。webサイトもあったけれど、広告からの問い合わせが圧倒的だった。畳という商材からしてwebとはあまり相性が良さそうではない。webからの問い合わせはだいたい縁無し畳だった*1
一日に回る件数は4~5件くらい。晩秋が繁忙期で、そのころには6件回ることもある。まず訪問して要望を聞く。子供も大きくなってもう傷つけるようなこともないだろうから、ずっと放置していた居間の畳を張り替えたいとか言うわけだ。なるほど、これは随分長いこと使ってますねえ。ちょっと床(とこ)も見せてもらっていいですか?とか言って畳を持ち上げる。するとだいたいすごい埃が出てくる。何年も掃除なんてしたことがないんだから当たり前だ。ああ、これは床替えも検討したほうがいいですね、とか適当なことを言う。潔癖な人はそれだけでかなり気持ちが傾く。


その前に「畳を替える」というのがどういうものなのか説明したほうが良いような気がする。
畳というものは、藁などで作られた「畳床(たたみどこ)」と"い草"を編んで作られた「畳表(たたみおもて)」からできている。畳の部屋を使っていると、足や物が擦れて畳表はどんどん傷んでいく。安いものだと1年から、どんなに良い畳を丁寧に使っていても10年程度も使えば替え時となる。そうすると畳床から畳表を剥がして張り替える。これが「表替え」と呼ばれ、「畳を替える」と言えば普通はこの表替えを指す。

f:id:hungchang:20160426230032p:plain(畳の構造 | 畳のイチオカ)

畳表だけでなく、畳床も替えなければならない場合もある。10年、20年と同じ畳床を使い続ければもちろん畳床だって傷んでくる。藁でできた畳床は、手入れが行き届いていないとクタクタになってしまい、新しく畳表を張ることができなくなってしまう。無理やり張ることはできても、床の形が歪んで、畳表にシワが寄ったり、張り終えた畳を並べたときに畳と畳の間に隙間ができたりする。
最近の畳床は藁ではなく、ポリウレタンなどの建材が使われることが多い。これは藁床と比べると湿気などに強い素材で、虫もわきにくい。その一方で、畳の張替えに向いていないという面もある。発泡スチロールを思い浮かべればわかりやすいが、刺激を与えるとボロボロと崩れやすいのが建材床の特徴でもある。なので畳表を張り替えるために同じところに何度も針を通すと、素材が崩れてきてしまい畳表にシワが出たり、ひどい場合には縫ったところが外れてしまうこともある。一度目の張り替えなら問題はないが、二度目、三度目となるとだんだんとリスクが高まる。
一般的な畳床の厚さは40〜50mmほどだが、30mm以下の「薄床」と呼ばれるものもある。洋室と和室を選べるタイプのマンションの和室は薄床の畳であることが多い。建てるときに和室用に深い床を用意しなくても畳を敷くことができるのがメリットだが、このタイプの畳床は、表替えができない。畳表をピンと張って縫おうとすると、引っ張る力に耐えられずに床が反ってしまうことが多い。薄床の畳を替えるときには、畳床ごと新調することになる。



話を戻すと、畳替えを検討するお客さんにどうにかして畳床ごと替えるように話をすすめる。そのほうが利益になるからだ。一畳2980円で替えられると思って電話をしてきたお客さんにプラス8000円の床替えを提案する。だってもうこんなにクタクタになっちゃってますよ。せっかく新しい表を巻くのに、床が傷んでたらもったいないじゃないですか。もう床がこんなに柔らかくなってしまっているんで、きれいな表を巻いてもシワが出ちゃうこともあるんですよ。ほら、昔はどの家も年末には畳干してたじゃないですか。畳って本当は年に一度くらいは干して湿気を抜くものなんですね。そうすれば何十年って使い続けることもできるんですけど、今は畳干すことなんてないじゃないですか。それでこうした新しい素材の畳床が出てきたんですよ。最近の畳床は丈夫な素材を使っているんで、湿気にも強くて長持ちしますし、虫も出にくいんですね。だから皆さん畳床ごと新調してるんですよ。
私の働いていた会社は、一般的な相場よりも値段は高い。広告費をかけて、遠くまで無料訪問しているんだから、その分が価格に転嫁されるのは当たり前だ。だけどほとんどの人は相場を知らない。"い草"の農家が減っちゃったんで、国産の"い草"の値段が昔よりだいぶ上がっちゃってるんですよ、とお客さんには言う。間違ったことは言っていない。うちは数多く仕入れて数多くさばいているからこれだけ安く提供できてるんです、とも言う。大量仕入れをしていなかったらもっと高かっただろうから、これも嘘ではない。
たぶん水道屋さんのしてるのもこういう話じゃないかと思うんだ。何も嘘を吐いちゃいないけど、少し話を誇張して、不安を煽りながら高い買い物に導く。不安を煽りながらって書くと印象が悪いけど、デメリットはしっかり伝えておかないと、そのことで後からクレームになりやすい。古い畳床を使おうという場合には、きれいに仕上がるかわかりませんと言うし、安い畳表を選ぼうとしていれば、今使っているものよりも傷みは早いですよと言う。伝えた上で選んでもらう。まっとうな営業だろう。

 

*1:半畳サイズの畳を互い違いに並べる。琉球畳とも。縁無し畳 - Google 検索