改めて家の中を探したけれど、やっぱり財布は無い。クレジットカードの利用履歴を確認するけど、不正利用はなさそう。高額決済は暗証番号や認証が必要になるので、まあ大丈夫だろう。
まずは交番へ向かう。窓口にはワイシャツの上にベストをつけた高齢の人が座っていて、たまたま警察署か本部から偉い人が来ているのかと思ったけど、あまりの仕事のとろさからシルバー人材か、それに近い派遣なんだろうと悟る。想像の3倍の時間待った後に、該当の財布の届け出が無いことがわかり、しかし都内での届け出の場合は警視庁管轄になるので、改めて都内の交番でも手続きが必要であることを教わる。
電車に乗って職場に向かう。都内での紛失届も必要だし、手続きには身分証があったほうがいいだろう。物を忘れたり失くしたりしても大丈夫なように、免許証は職場保管しているのだ。そうして着いたときには思いの外に時間がない。銀行はあと1時間で閉まる。どうせ待ち時間は長いし、当日再発行はできないし、最後でいいかと思っていたけど、もうすぐ行かねば窓口が閉まる。予定を変更して銀行へ向かおう。いやしかし、もしかすると既に届け出があるかもしれない。交番で確認してからでも間に合うだろうきっと。間に合うと信じたい。
職場最寄り駅にはみずほ銀行がなく、電車で移動する。錦糸町まで行けばみずほ銀行も、エポスカードカウンターもあり、交番も駅前にある。電車を降りて、まずは駅前の交番だ。市川とはうってかわって、こちらは実にスムーズに進む。警察官の動きには迷いがなく、こちらから質問をすればちゃんと答えが返ってくる。案の定届け出はなかったが、時間には余裕を持ってみずほ銀行へ向かうことができた。
2時間待ちの可能性を覚悟していたけれど、待ち時間はほぼゼロで手続きに移れた。のではあるがやはり面倒くさい。
キャッシュカードを止めることは問題ない。再発行もできるが、店頭手続きだと1000円かかるのがwebでなら500円で済むけどどうするか。いずれにせよ10日ほどで書留で送るから今日は受け取れない。通帳と印鑑があれば現金を下ろすことはできる。通帳の再発行は1000円かかるが当日できる。印鑑は当日変更できる。
ということで1000円払って使わない通帳を再発行することで現金を引き出すことに成功した。いや、窓口での引出手数料が別にかかっていたような気もする。
とはいえだ。通帳はただのメモ帳ではなく、おそらくは原価も数百円程度かかっているだろう。仮に300円だとして、1000円のランチと大差ない原価率。しかし時間あたり、店員あたりで裁ける客数がぜんぜん違う。ぜったい赤字じゃん。なのに過剰に丁寧なんだよな。利益にならない客にここまで丁寧に接する必要なんてなくない?
案の定エポスカードは即日再発行ができた。のでエポスでキャッシングしたほうが手続き的には楽だった。たぶん金銭的にも安く済んだんじゃないかと思うがどうだろう。
そのままマルイで財布を見繕う。ポイントがおよそ9000円分あるからそれ以内で買えるといいな、たぶん無理だろうな、あるいは一時的に使うだけのチープなものにするか、と考えを巡らす。いずれにせよ目立つ色合いにしたい。失くさないようにしたい。
Leeの財布が悪くなかった。比較的コンパクトな長財布で、くすんだ赤色で、同色でLeeの刻印が入る。これが1万円とちょっと。悪くない。悪くはないんだけど、Leeというのが中途半端なんだよな。Leeが悪い訳じゃないんだけど、財布にLeeと刻まれているのが見えるのはちょっとどうなんだろう。私がアメカジ的なものを着がちだから余計にしんどい。いっそもっと無名ブランドなら良かったが。
セカストでは、おそらくはレディースのさらにコンパクトな、知らないブランドの長財布が、500円であった。ブランドのタグがついていて、つまりは未使用品であるはずだが、それにしては汚い。そんなものは拭き取ればいいだろうと思い指先でつついてみて気付く。これは汚れじゃなくて、素材が溶けている。それはさすがに500円でも無理だなあ。
そうしてガルニエとかいうブランド。エキゾチックレザーの財布が3万円前後からあって、悪くない。下の階でも定価6万円の何とかレザーが6割引きだぞと言っていた店があったが、そこよりもずっとデザインが良いし、縫製も良い。とはいえ流石に予算オーバーなので引き返そうとしたら、こちらは最後の1個なので3割引きなんですと店員が話しかけてきた。この凹凸は型押しではなく、牛革の裏にホゲホゲを仕込んで浮き上がらせているんです的なことを言う。昨今の流行りとはかけ離れた無骨なサイズ感で、だからこそ使い勝手は良さそうだし、私の好みだった。色はライトグレイで、明るく目立つが、嫌らしさもない、絶妙な色合い。ではあるが、3万超の財布は3割引いたところで2万円を超え、つまり予算の倍以上だ。いくらなんでも無理だろと思いながら購入した。南無三。
家に帰り、なんでこんなものを買ってしまったんだ、と思いながら改めて財布を見てはニヤニヤする。なんだかんだやっぱりこれ良いな。
再発行したクレジットカードと、下ろした2万円を財布にしまう。財布と、洗ったユニフォームをバッグにしまい、そのとき初めてこのバッグに見たことのない内ポケットがあったことに気付き、同時に失くしていた長財布が見つかるのだった。