イライラしかない

具合が悪くて検査入院することになりました、みたいなメールが母 から来たと思ったら、次の日には電話が入り、同意書に家族のサイ ンが必要になったから来てくれと言う。そんなに具合が悪いのか。 検査ごときに何の同意が必要なのかよくわからないけど、必要だというなら仕方がない。仕事前に寄るから9時過ぎには出ないと行け ないけど、それでも良ければ行けると言うと、サインするだけだから家に上がる必要もないのでそれで十分だと言うので行ってきた。

家には上がらずサインするだけでいいと言うので、9時着を目指して出発していたが、今どこにいるんだ、いつ着くんだという電話が母から来る。鬱陶しいなと思ってしまうけど、まあ仕方あるまい。 本人は気が気でないだろうし、私も何時に着くだなんて伝えちゃいなかった。などとも考えていたのだが、どうやらもうひとつ頼みたいことがあったよう。私のLINEアカウントを母のスマホに登録させるよう姉に言われていたそうだ。帰ろうとすると姉に繋いだ電話を渡され、そんなのすぐ済むでしょ、あんたメール返信しないじゃない、などと言われる。SMSは返信しないけどLINEなら返信するなんてことがあるわけもなく、そもそもこっちはそんな時間見込んじゃいないし、LINEアカウントの交換なんてどうやったものだかすぐに思い出せないものを、そんなすぐに済ませられるわけもなく、何より姉の物言いが気に入らないので無視する。

続けて母は、来週手術をすることになったので立ち会えないか、と言う。今がどういう病状なのか私にはよくわからないんだけど、母が言うには、検査の結果を待たず、翌週には手術の日取りが決まっているらしい。もしかすると検査結果によっては手術が不要になるなどもあるのかもしれないけれど、そのことを母が理解しているのかどうかもよくわからないし、詳しく追求する時間もないので、スルーする。とにかく、当日立ち会えないか、という話をされた。それは今言われてもわからないけど、たぶん難しいんじゃないかと伝えた。そうだよね、と言われる。母の家を発ち仕事へ向かう。

 

翌日。仕事の調整がついた。当日は行けそうだと母にメールを送る。返信は夕方に届く。ありがとう、と。加えて、具合が悪く予定を早め明日から入院することになりました、という。もしかすると私が考えているよりも母の具合は悪いのかもしれない。

夜。仕事帰り、スーパーで夕飯の食材を買っていると姉からの電話が鳴る 。本田さんから電話あったんでしょ?なんで?入院するって聞いてるんでしょ?と。意味がわからない。本田さんというのは母が住んでいる家の家主なのだが、本田さんからの電話なんて来ちゃいない。姉は質問をしているていでありながら、尋ねたいことなんて何もなく、私の何らかの所作を責めようとしているようだ。しかしそれが何であるのか言いやしないし、そもそも前提となる情報が間違っている。すべてが気に入らない。

姉はそういう癇癪を起こすことが、昔からある。昔からメンタルが 不安定で、いくつかの病院を回り、手帳を持つようになった。だから、姉がそうした態度をとってしまうのも仕方ない部分もある。でも、相手が障害者だからと私の気が収まるものではない。腹立たしいものは腹立たしいし、気に入らないものは気に入らないのだ。

母は言う、自分が不安で仕方ないのに、姉が動転してしまっているものだから自分が落ち着かなきゃいけなくなる、と。でも私は、母のようにはなれなくて、ああした態度ばかりをとられては自分が 落ち着いてなんていられない。ただでさえイライラしているところに、余計にイライラしてしまう。

もう好きにしろよ、と言いたかった。そんなに文句ばっかり言うんだったら、お前が好きなようにしろよ。もう一切関わらないよ。葬儀も相続も一切関わらないから、もうお前が好きなようにやれよ。そう言ってしまいたかった。でもそこまで冷徹にもなれない。姉に啖呵を切るのはともかくも、実際に母を放置はできないし、もう長くないかもしれない母の心労を増やしたくもない。人間らしい感情の乏しさを自覚している部分もあるけど、そこまで人間を捨てることもできなかった。つくづく中途半端な人間だ。

 

また翌日。母から電話が入るが、仕事中で出られない。1時間後に再度着電。仕方ないので出る。曰く、手術の日取りが早まったとのこと。だから今日か明日にでも病院に来てほしいと言う。え、そんなに切羽詰まっているのかと驚く。しかしどう考えてもそれは無理な相談だ。そんなに急がないといけないの? 同意がないとできない手術なの? と尋ねるがそんなことはないと言う。来なくちゃダメなことはないけど、来てもらったほうがいいんじゃないかと先生が言っているそう。また9時に出られるようなら行けるけど、そういうわけにはいかないんでしょ? じゃあ無理だよね。わかった、先生にもそう伝えるね。そうして電話を終えると、今度は入院している病院から同じ内容の電話が来る。同じように、9時に出られるなら行けると伝える。では8時30分から9時30分までではどうでしょうか? と返される。え、9時には出ないといけないって言ってるのに? でも急いでするような話でもないですし、と言う。ここでまた耐えられなかった。

だって知らんよ、急いでする話じゃないのかどうか知らんのよ。何の話されるのよ。それを今話せよ。いちいちアンフェアなんだよ。何の話をするのかもこっちは知らんし、そっちが来てくれって言うから仕事の前に片道2時間かけて行こうとしてるのに、自分は30分すら融通する気もない。話があるなら今この場で話してくれよ。母は判断能力だってあるだろう。伝えれば理解できるよ。本人に判断させろよ。判断能力に問題があるの? 家族の同意がないとできない手術なの? いずれの質問にも答えは得られない。情報は開示しないままに相手に判断だけを迫る。気に入らない。

もう一度母から電話が入る。やっぱり手術は予定どおり来週に行うことになったと言う。え。何故。手術を急ぐ必要があったのでは。そうでなかったなら、いったい何の茶番だったんだ。苛立ちは増すばかり。

なんでこんなにイライラしているんだろう、と考える。よくよく思えば、そこまで腹を立てるようなことでもないよな。気が短くなってしまった。昔はもっと大らかな性格をしていたような気がする。歳を取ると丸くなるもんじゃないの? どうしてこんなになってしまったんだろう。