カルボナーラを食べにいった話

トラブル発生の電話で目を覚まし、休みの予定が出勤に変わる。急いで風呂に入って準備をしている間に不在着信とLINEが届いていて、行かなくても大丈夫になったとのこと。めでたしめでたし。おしまい。

 

 

 

 

 

せっかく起きて風呂に入ったし、ということで吉祥寺に行くことにした。つぶれる前にスパ吉を食べにいこうと思った。

スパ吉というのは吉祥寺はハーモニカ横丁にあるスパゲティの店で、もっちりの手打ち麺とかが美味しかったりそうでもなかったりする。店ではミートソースが一番人気だと言い張っているが、私が一番好きなのはカルボナーラだ。スパ吉のカルボナーラクリーミーさが足りず、かつてメニューにも「カルボナーラというよりスクランブルエッグのキムチ乗せ」みたいなことが書かれていた。これがもっちりした麺とよく合い、他の店では食べることができないのもあり、私の中でパスタ店といえばスパ吉であり、スパ吉といえばカルボナーラだった。なので阿佐ヶ谷の姉妹店ミート屋が残ったところでカルボナーラが食べられないのでは意味がなく、スパ吉のカルボナーラを食べに行かなければならなかった。

 

しかし驚くべきことにカルボナーラはなかった。マジかよ。俺は何のためにここまで電車を乗り継いで。

てかいつからこんな券売機が。一昨年はこんなのなかったぞ。店内も改装されていて、でも何年か前にも改装したばかりだったはずでは。以前と比べてかなり広々と作られているので、所謂コロナ対策というやつなんだろうか。そこまでしておいて何故閉店に。昼どきをだいぶ過ぎても満席なんだから、客入りが悪くてということもあり得ないだろうに。

 

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サーモンといくらのクリームソースとかなんかそんなの。普通にうまい。うまいんだけど、普通。五右衛門でも食べられそう。私がスパ吉に求めていたのはこれじゃないんだ。

 

 

帰りには吉祥寺をぶらぶらした。

カルボナーラが食べられなかった哀しみを引きずり、ただでさえ暑くてのんびり散策なんでできるような気候でもなく、吉祥寺の街を楽しむことはできなかった。かつて通い慣れた店も、来るたびにどんどん減っていく。

吉祥寺も普通の街になってしまったみたいな声をたまに聞く。ある意味でそれは正しい。でも、そうじゃない、とも思う。きっと吉祥寺は前から普通の街だった。決して特別な街ではなかったんだ。だけど、通い慣れた我々にだけは特別だった。お気に入りの店があり、通りがあり、劇場があった。そんな店も、どんな街も、いずれ移り変わってゆく。馴染みの店の跡には、見たことのない、あるいはありふれた店が入れ替わる。そうすると思い描いていた特別感は消え去っていく。街ははじめから普通の街だった。ただ当たり前の新陳代謝を繰り返しているだけで、我々が勝手に親近感を抱いては、それを失っていたに過ぎないんだろう。