正しいゆで卵のむき方

卵を茹でるときには殻に穴を開けておくとあとで殻をむきやすいという知見があって、卵に穴を開けるためだけの道具が100円ショップには売られている。実家に暮らしているころから私はその道具を愛用しており、一人暮らしを始めたときにはもちろん100均で買ってきた。穴を開けるとたしかにむきやすくなることが実感できる。だけど、そんな科学的根拠は存在しない、気のせいだ、と権威ある人に強弁されると、そうかもしれないなと思う程度の違いでもある。
しかし、その100均で買える卵に穴を開けるためだけの道具、何度めかの引っ越しでなくしてしまった。たかだか100円なのだから買い直せばいいものを、そのときの私は100円の出費を惜しんだ。要は空気が抜ければいいんだろ、と。水を張った鍋に少し高いところから卵を落とし、殻にヒビを入れることで代用できるんじゃないかと考えた。そして、その考えは間違っていなかった。大きくヒビの入った卵の殻は実にむきやすかった。100均の道具では、開ける穴が小さかったから、得られる効果も小さかったんだ。もっと大胆に開ければ、より大きい効果が得られた。
しかし、だ。すべての卵に程よいヒビが入ったわけではない。勢いよく鍋肌に衝突しても無傷に済んだ卵もいる。さらには、より大きく殻を損傷し、中から白身が溢れ出ている卵もいる。どうも思うように均一には仕上がらない。最近ではいくらか安定性も出てきて、10個茹でると6個程度はうまくいくが、少なくとも2個は無傷のままで、また別の2個は奇形となる。
そして、無傷の2個だ。毎回2個はヒビの入っていないまま茹でられ、むかれることになる。その2個の卵における試行錯誤の結果に得られたあれだ。前置きが長くて面倒くさくなってきた。

まずは茹で卵にヒビを入れる。ヒビが入りさえすればどうでもいい。問題はヒビが入ってからである。
卵にヒビを入れたら、その卵を水につける。そして、水の中で容器に軽く押し付ける。するとバリバリとヒビが広がる感触が手に伝わる。これはヒビを入れた側を下にして、上から押し付けると上手くいきやすい。これで卵の殻と白身の間に水が入り込み、殻がむきやすくなる。
少しむいてみて、それでもうまくいかないときには、再度水につけて、押し付ける。うまくむけないのは、おそらく白身と薄皮が密着してしまっていて、間に水が入り込めないからじゃないかと想像しているが、一部でも薄皮をむいてから、再度水の中で圧を加えることで、ほとんどの場合その問題も解決する。
この方法を知ってからはゆで卵の殻むきでイライラすることもなくなり、逆に集中力が高まり、仕事の業績もグングンと伸びて、ボーナスは前年の2倍にあがり、ウエストは10cm落ち、彼女もできて、宝くじが当たり、ブログは書籍化され、なんてことはもちろんないけど、なんだこの文章、どうやって締めればいいんだ。