ハンバーガーというのは素晴らしい食べ物で、100円払えばそこそこ腹の足しになるし、1000円も払えば本当に美味しいものが食べられる。1000円で食べられるものの中でもっとも美味しい料理ではないかとさえ思える。
もちろん美味しくないハンバーガーもある。100円バーガーもそれだ。美味しくない。世の中には美味しくないものが数多く、美味しいものは少ない。けれども、マズイものもまた少ない。美味しくないとマズイは似て非なるものだ。この高度に発展した競争社会において、マズイものは、それを補える他の魅力でもない限り、あっという間に淘汰されていく。マズイものを食べる機会はそうそうない。
結論から言えば、食べたハンバーガーがマズかった。それはつまり、例の100円のハンバーガー以下の味だったということだ。こっちは950円も支払ったのに。ビール代と合わせれば1500円だ。それでもマズかった。
口に含んで最初に感じたのは焦げ臭さだった。肉が少し焦げている。それ自体は大した問題ではない。肉はレアのほうが、柔らかいほうが美味しいという考えには与しない。レアがのほうが良いときもあれば、ウェルダンがふさわしいときもある。メイラード反応によって旨みを増すためには、ある程度の焦げは仕方ないし、その香ばしいかおりが一層の味わいを引き立てることも多い。だから焦げた香りが即ちNGではないのだけれど、今回はダメだった。いくら噛んでも旨みは出てこなかった。噛めば噛むほど、口の中の水分が奪われていく。パサパサしている。あれっ、何を食べているんだっけ? こんなハンバーガーははじめてだった。
ハンバーガーは旨みもなければ、塩みもなかった。ハンバーグにはわずかに塩が振られているのを感じるが、それだけだった。どうしたことかとメニューを見直すと、塩味を付けていますがお好みでケチャップとマスタードを付けて食べてくださいみたいなことが書かれていた。正確な文面は覚えていない。予め書かれていたことを見落としてしまっていたのは私の責任だが、そんなことは知ったことではない。これを読んでフツフツと怒りが湧き上がってきた。
これは塩味が付いていると呼べるものではない。たしかに塩が振られているのはわかる。でも塩味ってそういうことじゃないよね。下味が付けられていないんだ。だから味は薄いんだけど塩が尖っている。塩味というのは普通そうじゃないだろ。シンプルな味付けで、素材に塩を馴染ませているから、薄味でも美味しく食べられるし、あとからソースを付けても美味しい。だけどここではその一手間がない。だから塩はかかっているけど味がない。マズイ。
しかし、どうしてこんな味付けにしたんだろう。普通シンプルな味付け、薄味にするのは、素材の味をかみしめてほしいとか、味に自信があるからではないだろうか。一方でこのハンバーガーはどうだ。マズイ。肉汁も出ないハンバーグと、香りも旨みもないバンズ、存在していることも忘れてしまいそうな野菜。誰が食べてもウマイと思うわけがない。それは店側でもわかっているはずじゃないのか。それなのに、どうしてこんなマズさを引き立てる方法で提供するのか。普通はもっとマズさを隠そうとするだろう。
私もいつまでもマズさと向き合い続ける必要もないので、ケチャップのディスペンサーを手に取った。ひっくり返してケッチャプを絞り出す。すると口からやや赤みがかった水らしき液体が出てくる。それがケチャップから分離した水分だってことはわかるんだけどさ、でもケチャップどれだけ放置されてたんだって話じゃないですか。なんだかそのケチャップを使うのも嫌になってきてしまって、ハンバーガーだけビールで流し込んで、冷凍ポテトはひとつだけ食べてあとは残して帰ってしまった。今思えばマズイハンバーガーよりも、可もなく不可もない既製品のポテトを食べたほうが良かったような気もする。久しぶりにこんなにマズイものを食べた。