漠然とミルクと呼んでいたものを加工乳と名付けて、清涼飲料水ではなく牛乳と同じグループに分けたい

ヘイトスピーチって言葉が広まったのは在特会のデモからじゃないかと思う。そのときにはじめて聞いたって印象も残ってないので、前々から薄っすらと使われてはいたんだろうけど、どこで使われていたかは一切思い出せないし、そう話題になることもなかったように思う。それが最近はなんでわざわざヘイトスピーチという単語を使うかというと、それは法的な意味での名誉毀損や侮辱には当たらないからだ。それらの罪に問われるのは、具体的な被害者がいる場合に限られる。ここで具体的なというのは、特定の個人や団体を名指しすることであり、外人や在日という抽象的なくくりでは被害者はいないものとされる。彼らのシュプレヒコールは合法的活動ということになる。法を遵守しているのであればメディアでもその活動をあからさまに批難することもできず、名誉毀損といった法律用語が使われないのはもちろん、差別だ中傷だといった直接的な表現も避けられがちになる。
平たく言えば、乳脂肪分を調整されたものは牛乳と呼べないのでミルクと表記しているというようなものだけど、ここでまた厄介なのはミルクという言葉が加工乳だけを指すのではなく、牛乳のこともまたミルクというということだ。

 

ヘイトスピーチ:ネット発言、在特会を提訴 在日朝鮮人ライター、18日にも - 毎日新聞

 

ヘイトスピーチが訴えられた。Wikipediaにある「ある個人や集団を、人種(民族)・国籍・性といった先天的な属性、あるいは民族的文化などの準先天的な属性、あるいは宗教などのように人格との結び付きが密接な特別の属性で分類し、それを有することを理由に、差別・排除の意図をもって、貶めたり、暴力や誹謗中傷、差別的行為を煽動したりするような言動のことを指す」という定義を用いればたしかにヘイトスピーチだ。ただこれは、我々がなんて呼んでいいか最適な語が見つからず試行錯誤の末に仕方なく当てたヘイトスピーチという言葉の意味合いとは少し違う。この事案で問題とされているのは、特定個人を攻撃対象とした侮辱だ。だから、ついにヘイトスピーチに法の裁きがみたいな煽られ方には違和感が大きい。たしかにそれもヘイトスピーチではあるんだけど、問題なのはそっちじゃないんだ。法規制がなく合法的示威行為とされてしまっている方のヘイトスピーチなんだ。

ヘイトスピーチを取り締まるべきだとの声もまた小さくない。国連からも是正措置が求められ、法整備の気運も高まっている。首相からの前向きな発言も出されている
ただ、表現に対する規制を敷くことへの反発の声もまた大きい。新しい法規制を設けることによって、政府の恣意的な判断で特定の思想表現が制限される危険性が出てくる。今問題視されているのはヘイトスピーチかもしれないが、それを規制する権限が政府に与えられると、次は反原発が、反安保が、99%が制限されないとも限らない。それを危惧して、規制反対も根強い。
しかし、自民党は予想のさらに上をいっていた。

 

自民党、国会デモの規制を検討「仕事にならない」 ヘイトスピーチPTが議論

 

差別とか暴力とかじゃなかった。デモ自体を禁止しようというのはちょっと考えつかなかった。こういうことを真面目な顔して言っちゃう人が政権与党の要職に就いているんだからすごい。ほら言わんことかと規制反対派が勢いを増している。
これは自明なことだと思い込んでいたんだけど、今求められているのはデモや表現の規制ではなく、ヘイトスピーチの規制だ。ヘイトスピーチが何故そんなに問題視されているのかといえば、特定の個人・団体に対する攻撃と違って、現行法で取り締まることができないからだ。それならば、特定の個人・団体に対する攻撃と同じように、不特定多数へ向けられたものも犯罪として取り締まれる法整備をすればいいんじゃないのか。それを名誉棄損罪の拡大とするのか、新しい罪状を作るべきかは詰める必要があるだろうが。現行の法体系や刑罰名に詳しくもなければ思い入れもないのでそれはどちらでもいいんだけど、強調したいのは、表現の機会を奪うのではなく、行為に応じた刑罰が科せられる形に持っていきたいということ。