菅義偉氏に投票したことについて

2012年衆議院議員総選挙で私は自民党公認候補で、現内閣官房長官である菅義偉氏に一票を投じた。

そのことを今一度振り返る必要があるように感じて、このエントリーを書く。
 
 
 
当時私は横浜市西区に住んでおり、当地の小選挙区には3候補が立っていた。一人は自民党の菅氏であり、もう一人は民主党の三村氏で、最後の一人は共産党の児玉氏だった。私はその中で誰を選ぶべきだったんだろう。
 
民主党議員に投じるというのは選択肢に挙がらなかった。
私は民主党が嫌いだ。反自民という以外に一致した主義主張の一切ない烏合の衆であることは明白だった。いつも後出しジャンケンで、自民党の反対ばかりをしてきた。
大言壮語のマニュフェストで政権を取ったが、そんなこと実現できるわけもなかった。一度掲げた看板を下ろしてから、明確な党是も無い民主党政権には、世論どころか、党内をまとめることさえもできなかった。結果として政権運営は散々だった。
私は自民と共産との2党間で投票先を選ぶこととした。
 
 
 
共産党は嫌いじゃない。これまでの選挙でも何度か票を投じてきた。
特に地方選では共産党に票を入れることが多かった。地方自治では外交や経済政策などが評価対象となりにくいので、ある程度安心して投票できる。
国政での共産票は、共産政権を目指してというよりも、現政権への不信任の意思表示という意味合いが強い。2009年総選挙ではその意味で投票した。今回もそうしても良かったのかもしれない。でも、しなかった。経済政策に不満があったからだ。
共産党に限らない。昨年選挙で景気対策を謳う政党があまりに少なかった。たしか選挙公報に載せていたのは自民、公明、みんなと生活くらいだったんじゃないか。個人的には最大の争点であったし、世論調査でも高い関心を示していた。にも関わらず、完全にスルーされた。それが何より残念だった。
 
 
 
一方で自民党は経済政策を前面に押し出した。いわゆるアベノミクスだ。金融緩和や日銀への圧力には必ずしも良い面ばかりではないのは理解できるし、リフレ策が本当に効果的なのか判断する材料がまだ少なかったのも事実だ。それでもリフレ政策を実現して欲しいと強く感じたのは、アンチの反論があまりに非論理的なものが多かったからでもある。安倍氏がどれだけマクロ経済を理解しているのか定かではないが、少なくとも彼の後ろには立派なブレーンが付いている。しかし反対陣営にそうした様子は見えなかった。反対派に託したところで経済回復は見込めないと感じさせた。だったら未知数の新しい自民党のチャレンジに賭けてみたほうが良いんじゃないかと。
 
もちろん安倍自民党に政権を託すことに不安はあった。
ひとつは対東アジア外交だ。彼は海外メディアからタカ派だ右翼だと非難されている。実際に安倍氏の言動にはそうした部分も少なくない。
ただ彼のバランス感覚は悪くない。内心的に嫌中・嫌韓であることは明白だが、そこまで露骨な外交政策を取ることはない。前回政権でそれは強く感じられた。そして現在も実際にそこまで強行的な振る舞いを取ってはいない。
 
より恐れていたのは、父権的な内政行政を築くことだった。
安倍氏は小泉政権下で頭角を現し、後継選挙では小泉氏の支持を得た。それ故に私は、彼が小さな政府、自由主義者かと思っていた時期があったが、そうではない。彼は中央集権主義であり、父権主義であり、超保守派である。アベノミクスでも、金融緩和に次ぐ「第二の矢」は積極的な財政政策であり、さらに「第三の矢」に至っては成長戦略である。成長戦略を政府が掲げることは決して珍しいことではないが、あまりスマートでない印象は拭えない。
著書『美しい国へ』でも、他の多くの分野は小泉政権の肯定に終始していたものが、教育行政に関してのみ今後の展望を熱く語っていた。 そこで語られた内容が、家族を愛することであり、国家を愛することだった。また彼が親学推進議連会長であることも忘れることはできない。
 
 
 
それでも私は自民党に投票した。
今、何が最重要の課題かといえば、それは景気回復、あるいは経済成長だと思えたからだ。
物心ついたときからずっと不景気だった。小泉政権中に小さな好景気もあったが、総じてゼロ成長が続いている。上の世代の人が言う「景気が悪い」 という感覚が理解できなかった。不景気であることが通常だった。これは景気の浮き沈みの問題ではなく、日本経済が衰退しているのではないかと思えた。
そうした中で、リベラル派による現状維持を続けるのか、保守派による経済成長を目指すのかという問いの前で、私は現状維持を選ぶことができなかった。経済成長を諦めた中で貧困や失業、少子化や差別問題と戦うより、経済成長下での方がその実現可能性は高いんじゃないかと考えた。
 
 
 
 
 
 
 
総選挙後の政府の動きは想定の範囲内だった。
黒田日銀の動きは予想を大きく上回るものだったし、その結果としての経済指標も思った以上に大きく動いた。とは言え、政府の動きは決して大きいと言うほどのものではなかった。減税も、原発も、外交も、TPPも、憲法もそうだった。憲法案は糞だったが、それがそのまま審議にあがるわけもない。
問題は、参院選が終わってからだった。衆議院に続いて、参議院議員選挙でも圧倒的な勝利を収めた安倍政権は暴走を強めた。そして、特定秘密保護法案であり、菅氏のこの発言だ。
 

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両院でこれほど自民党を大勝させてしまったことは失敗だった。自民党がこうまで議席を占めていなければ、公明党による制止ももっとうまく働いたんじゃないかと思う。少なくとも維新との合意を待ってからの議決となったのは間違いないだろう。

 

でも、自民を大勝させるべきではなかったとして、それなら一年前の総選挙では誰に投票するのが正解だったんだろう。

民主党や共産党に投じるべきだったんだろうか。そうすれば自分は自民を信任していないと勝手に誇ることはできる。思う存分に自民党政権の文句を言うことができる。でもそれでいいのか。共産党に議席を与えることが、自民党に与えるよりも、本当に良い選択だったと言えるのか。どうせ菅氏が勝つことを見越して、共産党に投じることに意味があるのか。それはかつての政権獲得前の民主党が行っていたことと同じことじゃないのか。

今の現状が良くないことは確かだが、過去を振り返ってみても菅義偉氏への投票が間違っていたのか、私はまだ確信が持てない。