冴えカノ 1巻

Kindleなら荷物をコンビニまで取りに行く必要もないし、書籍よりも安いし、買っても邪魔にならないし、ということでとりあえず買ってみた。先日まとめ買いした『スレイヤーズ』が面白かったのと、一緒にねじ込まれた『生徒会の一存』のサンプルも悪くなかったので、ちょっと試してみたかったんだ。

 

 


原作はアニメとはいろいろと違った。
人物の登場させ方が違っていて、それはとても小説的な構成だ。まず加藤さんと出会い、それがどんな人物なのかが描かれる。次に英梨々、そして詩羽先輩が描かれていく。そうした構成はアニメとは違い、それ故に一部のエピソードが異なった描かれ方をしているが、どちらも十分に自然で、それぞれの媒体にあった描写を選んでいるように思える。悪くはない。プロローグが唐突で、それがどこに繋がるのかがわかりにくいという点を除けば悪くはない。
Amazonレビューで書かれてた文章表現が云々は、たしかに褒められたものじゃないだろうけど、責め立てるほどのことでもない。ライトノベルというものはこんなものじゃないかと思っている。会話中にゲーム内のセリフを挿むのが、そんなに巧みな表現でもないし、わかりにくいだけだからやめた方がいいんじゃないかとは思うが、気になるのはそれくらい。

問題は、主人公・安芸倫也がクズだということだ。こちらが原作なので、アニメがうまく修正したんだという方が正確なのかもしれない。彼の企画書が0点なのは共通だけど、それを制作するまでの過程が十分に描かれている分、ノベルの方が彼のクズさが際立って感じ取れる。また、アニメだと三次にはまるで興味がないかのような、誘惑に動揺はするけれど少なくとも"あわよくば"の期待を抱いたりはしないキャラクターだったが、原作だとこれがかなりのムッツリに描かれている。
安芸倫也がクズである。そして彼がクズであることによって、その誘いにホイホイと付いていく加藤恵があまりに軽薄になってはいないか。アニメでの加藤さんは、倫也に何らかの魅力を見出したのだろう。加藤さんの察しの良さ、洞察力の高さは他の多くの場面でも覗き見ることができた。そうして倫也に信頼を抱き、行動を共にするようになる。加藤さんはただノリが良いだけでなく、そうした"人を見る目"を持っているキャラクターだった。たぶん。私が倫也の魅力をまだ見出していないので、願望的観測ではある。ではあるが、鑑識眼があるかのように見える描写だからこそ、地味で何のスキルも持たない加藤さんが、魅力的なキャラクターとなっていた。
一方の原作ではどうだろう。安芸倫也はクズである。何故彼女はクズに付き従うようになったのか。彼女には安芸倫也の何かが見通せているのだろうか。少なくもと1巻を読んだ限りだとそうは思えない。安芸倫也の家での英梨々とのやり取りの中でも、彼女の理解力の(相対的)乏しさが見て取れる。説明したことしかわからないし、説明しないと理解できない。それは人間として普通のことではあるが、視聴者以上に倫也を、英梨々を、詩羽先輩を、その個々の人格を理解し信頼したアニメの加藤さんとは大きく異なる。ノベルでの加藤恵は十人並みの鑑識眼しかないのに、人に流されてしまう軽薄さばかりが目立って見える。軽薄さ。全然胸がキュンキュンしない。


ということで、おそらく私が2巻を買うことはもうないだろう。大人しくアニメ2期放送を待つことにする。1月24日まで秋葉原東京アニメセンターで開催中の冴えカノSHOP 2016 | TVアニメ『冴えない彼女の育てかた』公式サイトに行くこともない。加藤恵等身大フィギュアなんてまるで興味がない。絶対に行かないぞ。