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ここはあまり足を踏み入れてはいけない土壌のような気もするんだけど、だんだんと議題が疑惑そのものから離れて俺の好きな分野に移ってきたこともあるし、何よりもモヤモヤしていて気持ち悪くてとりあえず何か書きたい衝動が強いので、あまり深いこと考えずに書いてみる。たぶん仕事したくない気持ちがその衝動を高まらせている。高まらせているって何か変だな。高めているか。ちょっと違う気もするけど気にしない。
9/1のニュースで佐野氏が認めたのは、エンブレムデザインではなくて、そのプレゼン資料に用いたはめ込み画像の流用だ。プロのデザイナーがそんなことをするのが大問題であることには違いないんだけど、それは彼にとって作品ではないし、またエンブレムを他のデザインにするべき理由とも思えない。ここで「彼にとって」というのは、元の画像の作成者、というか撮影者かな、にとってはそれ自体が作品であるのかもしれないという意味。少なくとも佐野氏はエンブレムが盗作だとは認めていないし、また社会的同意も築かれていない。あくまで疑惑に過ぎないし、同業のデザイナーの中にもデザインの正当性を訴える者も多く、そうした点でSTAP細胞の時とは大きく異る。
シロクマ先生のエントリーに付けられたブックマークコメントを見ると、疑惑は黒であったと決着しているものと勘違いしている人が少なくない。そもそも黒だとしたら私刑を与えてよいものなのかというところに大いに疑問があるのだけど、そんなことまで言い出してしまうとこのエントリーに何千字費やす気だよ今日はもう帰れないぞという事態に陥ってしまうので放置して次に進む。厄介なことに、エンブレムはパクリでFAと思っている人が相当数いるということだ。ネットに書き込む人の中での相対数なので、実際にどれくらいの人がそう考えているのかは定かではない。だけど、これだけ多くの人が黒を前提として自己主張をしているのを目の当たりにすると、今回の話題を注意深く見てきていない場合だともう黒で決着しているんだと思い込みがちになるのではないかという懸念。
これは意図的なデマの拡散とは違うけれど、結果的には同じことが起こりかねない。どこだかの信用金庫では資金難で潰れるとの噂が流れて出金・解約が相次ぎ本当に潰れそうになったみたいな話があったけれど、インターネットではそうした噂の流布が対面での口コミよりもずっと早く広く広がっていく。スマイリーキクチなんて何の火も無いところから煙が上げられてきたわけで、しかもそれらを拡散していた人はデマを本当に信じて、正義感に基づいて行っていたという。今回のデザインが白か黒かはわからないけれど、外形的には全く同じ現象が起こっている。憶測をもとに中傷が行われ、それを見た人が彼は悪人に違いないと思い込む。さらに悪人には正義の鉄拳が振るわれるという嫌なサイクル。
そうしたサイクルは最低なんだけど、だからといって確証の取れた情報しかインターネットに書き込むべきではないのかといえばそれは確実に間違っていて、いや、間違っているというかそんなのは嫌だという方が正しいかな。そんなインターネットは面白くない。本当か嘘かもわからない話が渦巻いていたり、論理的でないけど情熱的な思いがぶちまけられていたり、我々の文脈とは遠く離れた向こう側の「正しさ」を見ることができたりするから面白いのに、それをコントロールなんてするべきではないし、コントロールされた美しいインターネット.go.jpみたいなのはとんだディストピアだとしか思えない。一律に規制を敷くことは愚かしくはあるんだけど、ならばこれが良いのかと問われればまあまあだと答えざるを得ないのが大いに不本意だ。
本当は、一人ひとりがリテラシーを身に付けてみたいな話が正論になってくるんだろうけど、全国民が賢くなろうなんて意見は何も言っていないに等しい愚論でもある。学校教育での情報の取り扱いに期待を抱いた時期もあったけど、学校教育で扱ってきた「常識」を今私たちが本当に身に付けているかというとかなり疑わしい。常用漢字の書き取り試験なんてされたら、私はきっと半分も正解できないだろうし、もっと酷い人だって大勢いることだろう。学校教育は現状をよりマシにはしても解決には導かない。
気になったのは、今日のシロクマさんのエントリーで「不特定多数が集まって増幅しあうインターネット上の“世論”」という言い回しがあって、ここの「増幅」というのを抑えることができれば、結果はかなりマシになるんじゃないかなとは思う。情報の拡散させやすさはその信頼性と反比例してしかるべきであるのに、現状としてそうなっていない。数が多ければそれだけ情報を信頼してしまう脆弱性が人間の脳にはあるようだ。憶測が一度広まると、その憶測をソースに新たな憶測が伝言ゲームで生まれていき、自販機でお釣りが間違って出てきたくらいの話だってATMを破壊してはウン千万円を奪ったことにされかねない。あいつは銀行強盗だ殺人犯だ非国民だ殺せ。ではどうすれば増幅を抑えることができるのかというと、もちろんそんなアイデアは持ちあわせていないわけで、結局のところ何も言っていないに等しいことしか言えていない哀しみ。