外国人技能実習制度について調べてみた

酷い話。
友人の誕生日パーティに、岐阜大学所有のヤギを盗んで食べたベトナム人の訴訟のニュースが流れてきたのは先月のこと。

検察側の冒頭陳述によると、ビ被告らは昨年8月上旬、仲間の誕生日パーティーを計画。同9日午後、ビールなどの買い出しをした際、仲間の1人が「ヤギを探しに行こう」と提案し、公園でヤギを見つけた。この夜、パーティーの最中にビ被告が「フェンスの囲いにヤギがいる」と話したため、仲間7人で公園に行き、2頭を捕まえて持ち帰り、すぐに解体して食べたという 

 

今週になってその続報として、被告の日本での過酷な暮らしを描いた記事が届く。

 

「日本で働けば月給20万から30万円。1日8時間、週5日勤務で土日は休み。寮あり」。こんな話を仲介会社から聞き、「思いつかないほど素晴らしい」と飛びつき、来日を決めた。仲介会社には自宅と土地を担保にして銀行から借金した約150万円を支払い、2013年3月に農業の技能実習生として来日した

長野県の農業会社でトマトを育てる仕事に就いたが、勤務条件は聞かされていたものとはかけ離れていた。毎日午前6時から翌午前2時まで働き、休みはない。午後5時までは時給750円、以降は1袋1円の出来高払いでトマトの袋詰めをした。1千袋詰めた日もあったという

  

やがて逃げ出し、他で働くも、在留期間が切れるとそれも解雇される。しかしまだ借金が残っているため故郷に帰ることもできない。スーパーで弁当などの万引きを繰り返していたという。
 
これに対してはてなブックマークでは技能実習制度自体の問題を指摘するコメントが並ぶ。

ベトナム人被告はなぜヤギを食べた 「過酷な生活」証言:朝日新聞デジタル

また技能実習制度の闇か/これだけgdgdになってるのに、それでも続けようってのはやはり経済界が奴隷を欲してるって要望に添ってるわけで/それこそ慰安婦問題に並びそうな国辱話なのに日本人感度低い

2015/02/19 23:25

 

ベトナム人被告はなぜヤギを食べた 「過酷な生活」証言:朝日新聞デジタル

この実習生とか研修って名前がつく制度、問題多過ぎるだろう。実態は毎度毎度毎度毎度ただの低賃金労働者集めだし

2015/02/19 23:55


ベトナム人被告はなぜヤギを食べた 「過酷な生活」証言:朝日新聞デジタル

技能実習生という名の醜悪な人身売買。あまりの奴隷生活に絶句した。「毎日午前6時から翌午前2時まで働き、休みはない」

2015/02/20 01:04

 

実際に技能実習生の過酷な環境を訴える事例はこれだけではない。
 
たとえばこんな訴訟も起こっている。

http://srk2002.com/roudou/kyouto122.html

外国人技能実習生として長崎県内の繊維会社で働いていたバングラデシュ国籍の女性(24)が3日、低賃金で長時間労働を強いられたとして、同社と社長らに未払い賃金など約880万円の支払いを求めて京都地裁に提訴した。代理人によると、1年目の外国人実習生から労働関係法令を適用する改正入管難民法が2010年に施行されて以降、未払い賃金を求める訴訟は初めてとみられる。
 訴状によると、女性は2011年に来日、同社が実習を受け入れた。毎月400時間以上働いたのに残業代は支払われず、月10万円の賃金から同社や仲介業者が住居費や仲介料として9万円を差し引き、手元に1万円しか残らなかった。休みも月2、3日しかなく、昨年8月に会社側に待遇改善を訴えたところ、帰国させられそうになったという

 
こちらを読んで気になったのは、17時までは最低賃金で雇用して、それ以降の仕事は出来高払い(という名の実質無償労働)となっていること。岐阜県の農業会社と長崎県の繊維会社というまったく異なる会社で、同じ雇用体系で搾取している。そんな偶然があるだろうか。まさか技能実習制度ではそうした雇用の仕方が認められている、推奨はされないとしても可能となるような制度の穴があるということかしら。
と思って調べてみても、当然そんなことがあるわけもない。技能実習生も通常通りに労働基準法の適用を受けるので、同じ人間が同じ事業所で時間によって契約形態が変わるなんてあり得ないし、そもそも出来高払の仕事であっても最低賃金を下回る雇用は認められない。技能実習生の労働条件の確保について |厚生労働省

Wikipediaによると、どうやら2010年以前は労基法の管轄外とされていたようだ。しかしその制度も改正され、労働基準法の適用下にある現在は、上記のような実習生の酷使は不法行為であって、それは決して技能実習制度の穴などではない。
 
もうひとつ浮かんでくる共通項はブローカーの存在だ。両者ともわずかな賃金の中からブローカーへの支払いが控除され、生かさず殺さずの生活が強いられている。母国からブローカーの甘言で実習生が来日してきたことを考えると、無知な経営者に不法雇用をすすめたのもブローカーの仕業だと考えることが自然ではないか。そうでもないと、決して一般的でもない就労形態が、遠く離れた事業所で同じように運用されているだなんてそんな偶然は考えにくい。
 
 
 
技能実習生が酷い環境で酷使されるのは、技能実習制度で容認されているようなものではなく、違法行為である。だけど、それならば技能実習制度に問題が無いのかといえばそうではない。
まずひとつは、事実上転職の自由がないことだ。もちろん退職することができないわけではないが、特定の事業所での活動のためにビザが認められているので、それを離れると在留資格も失う。もしかすると通常の技能ビザ等と同様に、離職後も転職活動をしていればビザを失うことはないのかもしれないが、技能実習を受け入れている事業所を見つけ出すこと自体が難しく、1年以内に訪れる更新時に間に合わせることはまず不可能だろう。
また、文面上では労基法遵守が謳われていたとしても、実際には不法雇用が横行している現状は制度に問題があると言わざるを得ない。2013年調査では「受け入れた2318事業所の約8割に当たる1844事業所が何らかの労働基準関係法令違反をしていた」という(外国人技能実習制度 人権保障の仕組みこそ必要だ | 社説 | 愛媛新聞ONLINE)。技能実習制度に限ったことではないが、労働行政は不法行為に対して監督が不十分である。

より厳しく言えば、8割の事業所が法令違反をしなければ受け入れないような制度を今後も継続していく意味があるのか、という見方もできる。実習生を受け入れるメリットとデメリットを見ると、どう考えてもデメリットの方が大きい(Point2.メリットとデメリット - さくら協同組合 <外国人技能実習生受入れ事業>)。法令遵守する限り、社会福祉活動として割り切りでもしないと受け入れられるものではないだろう。結果として不法搾取するような受け入れ先ばかりになってしまっているのではないか。